大塚酒造・酒にまつわる話

清酒の温度

 清酒醸造は、寒造りといって冬に行なわれます。その理由の一つは、蔵人という伝統的な出稼ぎの職人集団によって酒造りが担われていることです。蔵人は、秋、米の収穫が終わってから、 酒造りに出掛けてきて、また、春になって田植えのころに帰省するのです。もう一つは、清酒の発酵温度を低くして、ゆっくり発酵を進めたいことと、冬の方が、空気中の細菌も活動しにくく、雑菌の影響が少ないということがあるからです。 そうした温度の点から酒造りを見てみましょう。

蒸米の急冷
 酒米は、うるち米ですが、おこわを蒸かすように、こしきで蒸かします。蒸かし終わると米の温度は100度近くなっていますが、それでは熱すぎて困りますので、放冷機で一気に冷却します。麹用の蒸米は35度位に、仕込み用には、8度位にします。このとき、蒸かした酒米で、ひねりもちという、直径20センチ位のねった平たい餅をつくり、酒米や、蒸かしの良否を確かめることもあります。

麹の温度
 麹をつくる麹室[コウジムロ]は、室温が32-3度位に一定させてあり、湿気を大変少なくしてあります。麹菌を米の中の方へ繁殖させて、糖化力の強い麹をつくるためです。出麹といって、出来上がったころの麹の温度は40度位になっています。これを麹室から出して、ひなしといって、冷やして乾燥させます。

もろみの発酵温度
 酵母菌もそうですが、一般的に細菌が順調に繁殖する温度は30度位です。ところが、このような温度で酒を発酵させますと、発酵が進み過ぎてしまい、おいしい酒ができません。そこで最高温度で15度位の低温で、糖化と発酵のバランスをとりながらゆっくり発酵させてゆきます。当社の場合、仕込み時期には、8度くらい、10日目位に最高温度にして、4-5日間位それを持続させ、その後、降下して、22-25日位で12度くらいになるようにします。そのあと、上槽[ジョウソウ]といって、ろ過して酒と粕を分離させます。

火入れの温度
 酒は原酒で16-20度位、一般の製品で14-5度位のアルコール濃度ですので、アルコールの殺菌作用により、いわゆる病原菌は、大概生きることはできません。ところが、空気中にいる火落菌というアルコールを酢にしてしまう細菌は、清酒の中でも繁殖してしまいます。そこで、この火落菌と、酵母菌を殺菌して、そして麹の糖化酵素(アミラーゼ)を失活させる(こわしてしまう)ために、酒をしぼった後、貯蔵前に、火入れという63-65度くらいの低温殺菌を行います。火入れは、原酒を割り水して瓶詰するとき、もう1回行なわれます。ヨーロッパでこの低温殺菌法の火入れを発見したのはパスツールです。したがって火入れのことをパスタライゼーションといいます。これが19世紀後半です。ところが日本では16世紀のころからこれを行っていました。